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#しつけと教育

のどを鳴らし始めた子

6歳の男の子について伺います。バイオリンを習わせ始めて1年たちました。最近咳払いのように、のどを鳴らし始めました。聞き苦しいのでやめるように言うのですが、いっこうにやめません。バイオリンが負担なのかとも思って、少しの間やめさせようかと思うのですが、先生は、「とても筋がいいし、上達も速いので、惜しいから続けるように」と言われるのです。この先生は、どなたもご存知の高名なバイオリニストの一番弟子で、せっかくつかんだチャンスですから、子どもの将来を思って、やめさせるかどうか迷っています。(6歳児の母親)


おたずねのお子さんの奇妙な癖はチックと言います。「自分の意志とは無関係に起こる、不随意で突発的な筋肉の反復運動」とされ、時には、その場に関係ない奇声を発することもあるとか。咳払いに限らず、目をパチパチさせる、声を出す、首を振る、肩を動かす、顔をしかめるなど、からだ中どこにでも起こり、幼児期からはじまり、6歳から9歳ころまでがピークとも言われます。無意識にしていることなので、本人がやめようと思っても、やめられるものではありません。叱っても無意味でしょう。

大事に育てられたデリケートな子で、親が期待しすぎたり干渉しすぎたりの上に、何らかのストレスが子どもの上にかかって起こるとも言われます。やはりバイオリンのおけいこが、お子さんには負担なのでしょう。このまま放っておいて症状が消えることもあるでしょうが、長引くとなかなか治りにくいと言われます。おけいこは一時中断して、様子を見られたらどうでししょう。

バイオリンの才能があると先生が言われても、お子さんはどれほどの才能の持ち主なのか。それに、上手になればなるほど、高名な先生に直接レッスンを受けたいとか、外国へ留学させたいとか、お金もかかると言われます。それまでしても、なかなか著名なバイオリニストになって、食べていけるほどにはなれないと聞いています。

とすれば、バイオリンは趣味程度に考えて、いつかおけいこを再開したいとお子さんが言い出される日を待ってみてはどうでしょう。友人のバイオリニストは、訓練を積む中で、最後にどこまで美しい音を出せるかは、技術以外に立派な人格や教養を身に付けているかどうかだと言っています。

徒競走ではないのですから、お子さんに稀有な才能がおありだとしたら、一時の空白はあっても「開くべき花はいつか開くのだ」ぐらいにお考えになってはどうでしょうか。

深谷 和子(東京学芸大学名誉教授、こども支援士)