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#キッズ&ヤング

今夜もひとりでさみしい

パパとママがいなくて、今夜もひとりです。さみしいなぁ。どうしてうちは、こうなんだろう。(小2:けんじ)


けんちゃん、ひとりはさみしいよね。夕ごはんもひとりで食べるの?お父さんとお母さんは、お仕事で夜おそいのかな?けんちゃんがねた後で帰ってくるのかな?2人ともお仕事はたいへんだろうと思うけど、けんちゃんはさみしいよね。夕ごはんを食べてテレビをつけると、にぎやかに食事したり、おしゃべりしたりしている家のようすが出てきて、どうしてうちはこうなんだろうと、そのたびに思ってしまうよね。

けんちゃん、聞いてくれるかな。おおむかしにいた女の子(私のお母さん)の話を。

私のお母さんは明治40年仙台(せんだい)生まれ。きょうだいが7、8人もいたけど、女の子は2人だけ。母親(私から見れば、おばあちゃん)が、30歳ぐらいで脳出血(のうしゅっけつ)の病気で、寝(ね)たきりになり、12年間も寝たきりのままで生きていたとか。昔は福祉やヘルパーさんの制度(せいど)もなかったので、小学生が2人、お姉さんと私のお母さんが看病(かんびょう)や介護(かいご)をしたんだって。12年間もよ。男のきょうだいの中には中学校に行った子もいたけれど、お姉さんと母は小学校へ行かせてもらうのが、精一杯(せいいっぱい)。12年間の長い長い看護と介護。母は勉強が好きな子だったとかで、かわいそうだったと今でも思うの。最近ヤングケアラーというコトバが使われるけど、聞いたことがあるかな?昔はそうした子どもたちがたくさんいたんだって。

おばあちゃんが亡(な)くなってから、母は家出して、1人で夜の東北本線に乗って東京へ。そこで働(はたら)きながら、(昔あった)夜間女学校にも入ろうとしたけど、続かなくて、すぐにやめてしまったとか。

なんでけんちゃんに、こんな話を聞いてもらったかわかる?

ひとりぼっちの夜はさみしくても、でもお父さんもお母さんも元気で働いていてよかったと、私は思ったの。2人とも、きっと一人でお留守番しているけんちゃんのことを心配(しんぱい)しながら、お仕事をがんばっているんだね。

けんちゃん!

ひとりの時間には、宿題(しゅくだい)もできるし、好きな勉強もできる。テレビを見ることも、ゲームをすることもできる。いいじゃないの、人は人、君の家は君の家。さみしいことはよくわかるけど、けんちゃんは「強い心」で、ご両親のいない家(うち)を守ってくれるかな。ひとりの夜は、けんちゃんが一家の「城主(じょうしゅ)」なんだから、それを思いながら好きに時間を使ってね。

今、がんばっているけんちゃんの中の「強い心」は、人の一生の宝物。それが後になってわかると思うよ。

深谷 和子(東京学芸大学名誉教授 こども支援士)