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#しつけと教育

母親になつきません

4歳の娘のことです。私は子どもが赤ん坊の時から、ずっと親戚の町工場で経理をやっています。娘が私になつかないので気にしています。夫の母と同居しているのですが、その祖母にばかり「おばあちゃんと、おばあちゃん」とくっついています。私が帰って来た時は、「あ、ママがかえってきた」と嬉しそうなのですが、すぐまたおばあちゃんのところへ行ってしまいます。仕事をやめても生活には大して困らないのですが、どうしたらいいでしょか。(4歳児の母親)


共働きのご両親に代って、お子さんのお世話をしてくださるお祖母ちゃん。ありがたいですね。ずっとそばにいて下さる人に、お子さんが懐くことは不思議ではありません。産んでもらったから、経済的に養ってもらっているからとは関係なく、長時間一緒にいてくれる人に子どもが懐くのは自然なこと。喜びも悲しみもすべて受け止めてくれるお祖母ちゃんがいてくださって、お幸せじゃないですか。でも、「あ、ママがかえってきた」と一瞬だけでも嬉しそうな言葉が出るのは、お母さんも、ちゃんとお子さんの心の中にいるのですから、安心ですね。

心理学者は、特定の養育者と過ごす中で子どもの中に「愛着(アタッチメント)」と名付けられる、人との密接な「情緒的関係」が生まれると考えます。その関係の中で子どもは「世界は自分に優しいもの」(自分を大事にしてくれるもの)と思うことができて、人や世界への「基本的な信頼感」が生まれ、やがて大きな世界に出て冒険することもできるようになります。その養育者のイメージを、子どもの心の中で「安全基地」ができると表現する人もいます。その安全基地が、つらいことにあった時に子どもを「がんばろう」という思いにさせる。それが、悪い出来事にあっても打ちのめされないように、人を護るのでしょう。

でも、不思議なことがあります。小さい時はひたすら「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん」だった子どもが、やがて「やっぱりお父さん、お母さん」のようになっていきます。おそらく、小さい時は親の中にある「厳しさ」のようなものを、うるさいとかコワイとしか捉えらなかったのが、その奥にあるものをちゃんと感じとることができるようになるのでしょう。

ですから、もしそのお仕事が、お母さんにもご家族のお暮しにも、むろんご親戚にとっても「いいこと」と思われるなら、自信をもってお仕事をお続けください。

お子さんが今ひたすら「お祖母ちゃん、お祖母ちゃん」なのは、心配なことではなくて、お子さんがお祖母ちゃんの下で、毎日、温かく幸せな時間を過ごしておいでのことからでしょう。やがて幼稚園や学校に行くようになれば、お子さんの世界も人間関係も広がって、広い視野で周囲の人々を見ることが出来るようになるでしょう。子どもは日々成長していく者たちですから。

深谷和子(東京学芸大学名誉教授・こども支援士)