#キッズ&ヤング
苦手な相手とペアを組む時に
私は大学2年生です。学校でも、アルバイト先でも、運が悪いのか、必ずといっていいほど、あまり気が合わない人、もっとはっきりいえば、好きになれない人とペアを組むことが多い気がします。苦手な人がいることをどう考え、どう行動すればいいか、教えてください。(大2:里沙)
好きになれない人とペアを組むことが苦手な大学2年生の里沙さんに
そうか。その気持ちよくわかるなあ。ぼくも高校1年生の頃、クラスにとても相性の悪いSという男がいて、そいつと二人で、友人の病気見舞いに行かなくちゃならない状況になった時、絶望的な気持ちになったからね。なんで運命はこんなに皮肉なんだろうって思いもしたよ。
ぼくの息子は小学校4?5年生(10歳)の頃、「担任の先生は好きだけれど、ひとつだけヤナことがある。いつも、『ミンナデナカヨクシナサイ』っていうけど、そんなの無理。イヤナヤツとはナカヨクできない」って言っていたよ。なるほど、それも一理ある。
自分の感情をごまかさずに見つめるという点で、それは悪いことじゃあないだろう。「建前と本音を使い分けることが大人になるということだ」なんていう俗っぽい社会常識を平気で口にする人よりは、極めてまともだとも言えるかもしれない。
そういうとらえ方(自分の感情に素直になること)をすることが、悪いことじゃないと分かったうえで、別のやり方もあるということも話しておこう。それはあなたの「アルターエゴ(もう一人の自分)」を創るという方法だ。このやり方には、二つの効用があるだろう。
効用の一つ目。例えば、あなたは、今は学生だけれど、遠からず社会人になるだろう。仕事の上で、これから、いつも気が合う人や好きになれる人と組む幸運が、ずっと続くと考えられるかい?嫌な人、気が合わない人を避けてもなんとかやっていけると思うかい?
もちろんそうじゃあないだろう。同じ職場の人間とチームを組んだり、仕事上付き合いのある他の会社の人と接する時、自分が苦手とする人と組んだり、接したりしなくちゃならないことは意外に多いものだ。そんな時に、あなたは彼らとうまく付き合っていけるだろうか。
だとすれば、今のうちから気が合わない人、好きになれない人と距離をとりながらも、どう付き合っていくか、少なくともマズイ関係にならないように振舞うかの技術を習得しておくのも、必要なことだということになる。それはあなたのストライクゾーンを広げるだろう。
効用の二つ目。あなたが最初に、気が合わない、好きになれないと思った人のうち、幾人かは、付き合ううちに関係が変わってくる可能性があるはずだ。実際、高1のぼくが苦手だった男は、自分の欠けた所を照らし出す鏡となり、やがて生涯の友人になった。
*まとめ
その1 好き嫌いの自分の感情に正直であることは悪いことじゃあない。
その2 アルターエゴ(私とは違う私)を作ることの効用1。
やむを得ずに苦手な人と接する時の上手な振舞い方を習得することができる。
その3 アルターエゴ(私とは違う私)を作ることの効用2。
気が合わない好きになれないと最初に思った人の内の少数は、あなたの欠如を照射してくれるよい友人になるかもしれない。
里沙さん。自分の好き嫌いの感情を素直に認めることは大切なことだ。でも、あなたはもう10歳の子どもじゃあない。今は大学生で、もうすぐ社会人になる。それなら、私には苦手な人がいるという認識をきっかけにして、素直な自分の他に、アルターエゴ(私とは違う私)を創る練習をしてみたらどうだろう。それはきっとあなたのキャパシティを広げるはずだ。
湯浅 俊夫(書評家)