#キッズ&ヤング
家族の仲が悪いです
お父さん、お母さんは、仲が悪いんです。いつも、お金のことでけんかをしています。お父さんは、絵の描き方を教えてくれます。そのおかげか、描いた絵が賞をとりました。学校でも先生に「絵が上手いです」とほめられます。お父さんは、本当は絵描きになりたかったと言います。お母さんは、すごく働き者です。自分で商売をしてお金をかせいでいます。お父さんは、お母さんのお金を当てにしている感じです。お父さんも、お母さんも大好きです。二人に仲良くなってほしいです。私はどうしたらいいですか?(小4:きらら)
絵描きになりたかったお父さん。きららちゃんが絵が上手なのは、きららちゃんの中に、お父さんの血が流れているからかもしれないね。(ちょっと説明が難しいけど、お父さんの絵の才能の「遺伝因子」がきららちゃんの中にあるのかも。)お父さんは絵描きになることを、もうあきらめたのかな。ちょっと悲しいね。「見果てぬ夢」って言葉があるの。誰でも自分がしたかったこと、なりたかったものになれずに、そのままになってしまうことなの。
私も小学生の時は絵描きになりたくて、近所の絵描きさんに絵を習いに行きました。ある時、その先生が上野で開かれていた美術展に連れていってくださったの。広い会場にずらりと並んだ油絵の数々。それを見て、「こんなに上手な人がたくさんいては、私は絵描きにはなれないな」と絵を習うのをやめてしまって、親から「和子はあきっぽいのだから」と叱られました。高校の時はお医者さんになりたかったんだけれど、学力が足りなくて医学部受験はあきらめて、その頃はパッとしなかった心理学科を受験したの。私の夢は2つとも、「見果てぬ夢」に終わりました。
でも、きららちゃんのお父さんの中には、まだどこかに絵描きさんの魂(たましい)のようなものがあって、お母さんは、そんなお父さんが好きなのかもね。商売に熱心な働き者のお母さんは、働かない(?)お父さんとケンカしながら、どこかで「この人は、いいな」って思っているのかもしれない。大人の世界には、子どもにはわからないことがいっぱい。いつもお金のことでケンカしているお父さんとお母さんの中にも、相手を「いいな」って思う気持ちがあるのね、きっと。
きららちゃんができること。それは、親のケンカが始まったら、「やめてよ」とか言わないで、そっと表に出て、庭のお花を見たり、アリがエサを運んでいるのを見たり。そのうちに2人ともケンカするのにうんざりするか、ケンカする気持ちにもならないほどうんざりするか。その頃には、きららちゃんも大学生とかになっていて、また別の世界を見つけていたりするかもしれないね。先のことは、なってみないと誰にもわからないものなのね。
深谷和子(東京学芸大学名誉教授 こども支援士)